スタートアップとは?ベンチャーやスモールビジネスとの違い
2021/11/26
本記事では、スタートアップとベンチャーやスモールビジネスの違いについて解説していきます。
読了目安時間:10分
(2024年8月21日 更新)
Writer:Megumi Shoei, Marketing Manager / Chiyo Kamino, Content Marketing Associate
1. スタートアップの定義
スタートアップを特徴づける要素として、「革新的なアイデアでこれまでにない新たな価値を提供すること」、「短期間のうちに急成長することを目指していること」の二つが主に挙げられます。
つまり、スタートアップとは、革新的な技術やアイデアで新たな市場を開拓することで社会に新しい価値を提供し、爆発的な成長をするイノベーティブな企業のことを指します。
1.1. スタートアップとは?ベンチャーとの違い
スタートアップを定義する際、比較対象としてベンチャー企業との違いについて問われることがあります。
ベンチャー(Venture)とは 英語で「冒険的企て」「危険」などを意味しており、日本語でのベンチャー企業は「Venture Business」から派生して作られた和製英語だと言われています。
経済産業省によると*1、「ベンチャーとは、起業にとどまらず、既存大企業の改革も含めた企業としての新しい取組を指す」と記載されています。つまり、ベンチャーは起業も含め新規事業を総じて表す言葉として捉えられ、スタートアップはベンチャーの一部であると言えます。
1.2. スタートアップとスモールビジネスの違い
スタートアップとベンチャーの違いは上述の通りではありますが、スモールビジネスとの違いについても比較されることがあります。
それではスタートアップとスモールビジネスとの違いは何でしょうか。両者は異なる事業モデルや成長戦略を持っています。以下で主な違いについて解説していきます。
1) 成長戦略
スタートアップは短期間に急速な成長と拡大を目指す企業体です。
革新的なアイデアや製品を創出し、市場のニーズに対する新たな解決策を提供することで、最終的には上場やM&AなどのEXITを目指します。製品やサービスの開発段階で収益をあげることはほぼ不可能なため、一時的に収益が赤字となっても、大きな市場シェアを獲得することで後の黒字化を目指します。また、ユーザーからのフィードバックやデータを元に、高速にPDCAを回すことで変則的な市場や変わりゆく顧客ニーズにも迅速に対応でき、スピード感をもって成長することが可能です。
一方でスモールビジネスは、既存のビジネスモデルの中で新たな事業を展開・成長させる、もしくは既存事業を継続することで安定的な成長・維持を重視しており、その点において市場に新たなビジネスモデルを構築することを目指すスタートアップとは異なります。
2) 資金調達
創業初期のスタートアップの資金調達は、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達(エクイティ投資)が一般的で、事業が成長するにつれて、事業会社などからの出資を含め、より大規模な資金調達を行うことがあります。
このように、スタートアップの資金調達が革新的なアイデアにリスクマネーが流れ込む構造を持っているのに対し、スモールビジネスは、銀行からの融資による資金調達となります。
3) 出口戦略
スタートアップは事業計画の中に出口戦略を持っていることが特徴です。スタートアップが成長し、株式上場(IPO)あるいは企業との合併・買収(M&A)を一般的に「EXIT(エグジット)」と呼び、一般的に成功の指標と見なされています。
投資家や創業者はIPOやM&Aに応じて投資を行った資金を回収し、利益を得ます。スモールビジネスにおいては、持続的な事業成長もしくは事業維持を目的としているため、一般的に出口戦略を設けていません。
4) リスクと不確実性
スタートアップは通常、新しいアイデアや市場に挑戦するため、先行事例がなく事業に不確実性が伴います。「崖から飛び降りながら飛行機を作る」とLinkedin創業者リード・ホフマン氏が形容するように、いわゆるハイリスク・ハイリターンなビジネスモデルと言えるでしょう。反対にスモールビジネスは、既存の需要や確立された市場で事業を展開するため、リスクや不確実性が低いものの競合も多数存在しています。
2. スタートアップが注目されている理由
上述の通り、スタートアップは革新的なアイデアや技術を有している他、大手企業では難しいスピード感や柔軟性も持っているため、変化の激しい市場環境に迅速に対応しながら新しい市場を開拓し、経済成長や市場競争の促進に寄与しています。
近年では人工知能や次世代コンピューティング、バイオテクノロジーのような先端技術を駆使し、スタートアップによる新たなサービスや製品が続々と生み出されています。
このようにスタートアップによって創出される新たなビジネスモデルやサービスは、雇用創出や生産性向上、持続可能な社会(サステナビリティ)の実現に繋がりうることから、社会全体にポジティブな影響を与えると期待されており、投資家や企業、政府機関からの支持を集めています。特に日本においては、グローバル競争の激化に伴い、新たな産業の創出が求められています。日本は長年、製造業中心の経済構造でしたが、国際競争力を維持するためにはスタートアップによる革新的な製品やサービスが必要です。
さらにサービスや製品だけではなく、スタートアップを中心に実現されている効率的な働き方や新しい雇用形態は、日本社会が抱える少子高齢化による労働力不足や経済停滞といった課題を解決するキーポイントとなり、経済成長にも寄与すると考えられます。また、テクノロジーの進化とデジタルトランスフォーメーションの推進も注目を集める要因です。日本政府はAI、IoT、ディープテックなどの先端技術を活用するスタートアップを支援し、エコシステムの整備を進めています。国際的なスタートアップエコシステムとの連携強化により、資金調達や市場拡大の機会も増えています。
これらの要因から、スタートアップは日本経済の新たな成長エンジンとして期待され、注目が集まっています。
出典:経済産業省「スタートアップの力で 社会課題解決と経済成長を加速する」
3. 日本のスタートアップの状況
国内VCの投資額は2022年に9459億円と過去最高の投資額を記録しました。2023年は前年に比べ投資額はやや落ち込んだものの(*2)、政府から「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が発表されるなど(*3)、スタートアップへの日本国内の関心は依然として高い状況にあります。
しかし、ユニコーン企業(企業価値10億ドル超の非上場企業)数は2022年の時点でアメリカ554社、中国174社、インド64社に比べて、日本は10社と少なく、他国との差が開いている状況です。また、デカコーン(企業価値100億ドル超の非上場企業)数はアメリカに29社、中国に10社ある一方、2023年時点で日本には存在しないため、スタートアップの企業価値の側面でも世界との差がある状況です(*4)。
日本政府はこのような国内スタートアップの課題を認識し、岸田文雄首相は2022年を「スタートアップ創出元年」と定め(*5)、2022年8月1日にスタートアップを支援するための新たな大臣ポストを設置するなど(*6)、さまざまなスタートアップ支援戦略を推進しています。
また、政府からの補助金や助成金も、アーリーステージのスタートアップから後発のスタートアップまで、さまざまなレベルで増額されています(*7)。また、指定都市で起業する起業家のためのビザ要件を緩和しており、海外の起業家を日本に呼び込もうという動きがみられます。
グローバルでは多くの投資家もこの戦略に従っています。2021年、日本のスタートアップへの投資総額は49億米ドルから71億米ドルに増加し、2020年比で46%増となりました(*8)。日本の大手企業もスタートアップを買収しており、2021年はスタートアップの買収件数は136件に達し、過去5年間で最多を記録しました(*9)。
バブル崩壊後失われた30年の間に、グローバル市場における日本企業のプレゼンスは大きく後退しました。日本が国際的競争力をふたたび高め、来る少子高齢化社会の中で経済力を保持しつつ成長し続けていくためには、かつて日本の製造業がそうであったようにグローバル市場でインパクトを与えることのできるスタートアップの活躍が求められています。
4. Plug and Play Japanが提供するオープンイノベーション支援
Plug and Playでは、550社以上にわたる世界中の大手企業へ、年間約2500社のスタートアップを紹介しています。大手企業とスタートアップにヒアリングを行い、双方にとって有益な協業につながるよう、両者の橋渡しする役目を果たしています。
また、両者のスムーズな連携を促進するため、大手企業向けにスタートアップに対する理解を深めるセミナーやイベントを開催しています。ご興味のある方は、ぜひ弊社のイノベーションプラットフォームへご参加ください。
- <参考文献>
1) 平成26年4月 ベンチャー有識者会議
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/downloadfiles/yushikisya_kaigi_torimatome.pdf2)【最新版】2023年スタートアップ調達トレンド
スタートアップ情報リサーチ「スピーダ」
https://initial.inc/articles/japan-startup-finance-20233) 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版
内閣官房 スタートアップ育成ポータルサイト
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf4) VCの視点から見たスタートアップの現状と課題
総務省情報通信審議会 総合政策委員会
https://www.soumu.go.jp/main_content/000862642.pdf5) Editorial: Japan PM Kishida’s New Year’s speech plays it disappointingly safe
January 5, 2022 (Mainichi Japan)
https://mainichi.jp/english/articles/20220105/p2a/00m/0op/024000c6) Japan creates new Cabinet post to boost startup ecosystem
August 1, 2022 (Japan Times)
https://www.japantimes.co.jp/news/2022/08/01/business/daishiro-yamagiwa-startup-minister/7) Japan looks to take startup ecosystem to next level with more government help
August 10, 2022 (Japan Times)
https://www.japantimes.co.jp/news/2022/08/01/business/japan-startup-ecosystem-progress/8) 9) Japan Startup Funding 2021: 1 Trillion Yen Milestone Within Sight
March 3, 2022 (INITIAL)
https://initial.inc/articles/japan-startup-funding-2021-en